●片葉の蘆● 出自:日本→岩手県→紫波 別名:─ 同一:─ 前神:─ 字義:─ 盛岡の北山の、竜谷寺のある辺りは昔、昼でも暗い大きな森だった。 ここを通る人はたびたび賊に襲われた。 ある時、大きな厨子を背負った旅の僧がこの森を通りかかった。 木の下で一休みしていたが、旅の疲れでそのまま眠りこんでしまった。 僧がこの森に入り込んだ頃から後をつけていた45人の賊は それぞれ刀を抜いて近寄り、いっせいに切りかかった。 刀が僧の身体に触れた途端に激しい物音がして、 厨子の中から金色の光が射し、賊は刀もろとも弾き飛ばされた。 物音に目を覚ました僧が辺りを見渡すと、賊がそこら中で気を失っている。 これは何事かと僧がきょろきょろと見回していると、 気がついた賊が恐ろしそうに僧を眺め、すごすごと森の奥へ逃げて行った。 僧は厨子の扉があいている事に気が付き、中を覗いて見ると大切な観音様の像がない。 賊に盗まれてしまったか、と顔色を変えて見回すと 少しはなれた草むらに首だけが転がっていた。 また少し離れた所に胴や足等がばらばらになって転げていた。 ところが手だけがどうしても見つからない。 草の茂みの向こうに小さな川があり、そこには蘆がしげっていた。 僧がもしやと思って中を覗くとそこに手が浮かんでいた。 そしてその辺りの蘆が、不思議な事に葉が一方だけになっていた。 これが片葉の蘆と言われ、現在でも残っている。 そして、僧の身代わりになった観音様は、竜谷寺に保存されている。 |