●遠野物語(とおのものがたり)−7●

上郷村の民家の娘が栗を拾いに山へ入ったまま帰らなかった。
家の者は娘が死んでしまったと思い、娘の使っていた枕を身代わりとして葬式を
執り行った。そして何年か過ぎた。
上郷村の者が漁をして五葉山の腰の辺りに入って、大きな岩が覆いかぶさった
岩窟の様になっている場所で、偶然にこの女と出会った。
互いに驚き、どうして山にいるのかと女に聞いた所、
女は山に入って恐ろしい人にさらわれてここに来たと答えた。
逃げて帰ろうと思うのだが、まったく隙が無いと言う。
その人はどんな人かと聞くと
普通の人間に見えるけれど、背がとても高く、目の色が少し違うと言う。
子供も何人か生んだが、自分に似ていなければ自分の子では無いと言い、
食べたり、殺したりして皆どこかへ連れ去ってしまうと言う。
本当にわれわれと同じ人間なのかと聞けば、
着ている物等は人間と同じだが、ただ目の色が少し違うという。
五日に一度か二度、同じ様な人が何人か集まり何か話をしてどこかへ出かけてゆく。
今に帰ってくるかも知れないと言う事で、猟師も恐ろしくなり、村へ帰った。
今から二十年程前の話である。

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